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最高裁判所第一小法廷 昭和48年(行ツ)94号 判決 1974年4月18日

上告人 大城正男

被上告人 杉並税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について。

被上告人のした本件決定処分は、上告人の昭和三八年における総所得金額に対する課税処分であるから、その審査手続における審査の範囲も、右総所得金額に対する課税の当否を判断するに必要な事項全般に及ぶものというべきであり、したがつて、本件審査裁決が右総所得金額を構成する所論給与所得の金額を新たに認定してこれを考慮のうえ審査請求を棄却したことには、所論の違法があるとはいえない(なお、本件審査裁決は、審査請求を棄却しているから、不利益変更の禁止に触れないことはいうまでもない。)そして、本件決定処分取消訴訟の訴訟物は、右総所得金額に対する課税の違法一般であり、所論給与所得の金額が、総所得金額を構成するものである以上、原判決が本件審査裁決により訂正された本件決定処分の理由をそのまま是認したことには、所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 下田武三 大隅健一郎 藤林益三 岸盛一 岸上康夫)

上告人の上告理由

昭和四三年六月二四日付でなされた審査裁決は譲渡所得額七、七九七、八五七円、給与所得額二三二、〇〇〇円の合計額が杉並税務署長のなした異議決定の額七、八三二、六七七円を上回る事を理由に棄却の裁決をしたものであるが、原処分、異議決定、審査請求はいづれも譲渡所得に限定されたもので、前記審査裁決は審査請求外の給与所得を加算することによつて原処分を維持しようとするものであつて違法な裁決と言わなければならない。

なぜならば行政不服審査法にもとづいく審査請求は処分庁の処分に不服申立即ち救済を申し出たものであつて、審査庁が審査請求人に不利益に当該処分を変更する事は許るされないのは同法四〇条で明らかである。審査の内容から見れば当然国税局長は審査の対象となつた譲渡所得について原処分の一部を取消し譲渡所得金額七、七九七、八五七円と裁決すべきであつた。

本控訴は原処分の取消、即ち適正な譲渡所得額を争つたものであり審理の実態からもその事は明らかである。そして原判決は原告の主張をしりぞけ被告の主張を全面的に認めたものであるが、その内容とする所は譲渡所得七、七九七、八五七円、給与所得二三二、〇〇〇円を確認したものである。

然しながら原処分は譲渡所得七、八三二、六七七円で本件控訴の訴訟物はこの原処分であり審査の裁決ではないのである。従つて審査庁の審議内容が有効に存立する為にはあらためて処分庁がする処分がなければならない。

然るに原判決は被告の主張である違法な裁決内容を柱としたものであるから法令違反であり破棄されなければならない又それが認められないとしても違法な裁決内容である訴訟物以外の他の所得との合算をしりぞけ、譲渡所得額七、七九七、八五七円と自判すべきで、本件控訴を棄却した原判決は民事訴訟法第三九五条六項理由の齟齬に当り破棄されるべきである。

以上

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